ダイバーシティ・マネージャーとしての活動 2 <ワーク・ライフ・バランス>
今回は、ワーク・ライフ・バランスについて書きたい。
ぼくがダイバーシティ・マネージャーになった頃、会社では、ワーク・ライフ・バランスの事を、「ベターワーク・ベターライフ」というコンセプトに置き換えて推進するようにしていた。「ベターワーク・ベターライフ」とは、仕事は生活の一部であり、仕事が充実すれば生活も充実し、生活が充実していれば仕事も充実する。仕事と生活は二律背反するものではなく、相互に関連しあっているという事を意味する。
ベターワーク(充実した仕事)・ベターライフ(充実した生活)は、人によって違う。それは会社から提案したり、決めるものではなく、個々人が自分にとってのベターワーク・ベターライフは何かを考える必要がある。何故ならば、何を持って充実感を感じるかは人によって違うから…。
つまり、自分の人生に関してオーナーシップを持つという事なのだ。そして会社はそれぞれのオーナーシップを尊重することが重要なのだ。
ちょっと天才バカボンのパパみたいな言い回しになってしまったが、自分の人生にオーナーシップを持つということは、人生のすべての役割にやりがいと充実感を持って取り組むことではないかと思う。すべての役割とは、親として、子供として、夫や妻として、恋人として、親友として、コミュニティの例えば少年野球のコーチとして、そして社員としてとかマネージャーとしてという意味である。
役割は、仕事をしている社員やマネージャーが常に第一優先され、余裕があればその他の役割に取り組むというのは違う。よく、仕事とそれ以外をONとOFFという言葉で区別することがあるが、ぼくはその区別が好きではない。人生はすべてONである。
こんな話がある。ある女性社員から聞いた話だ。
続きはこちらをクリック↓
https://www.maquino.co.jp/single-post/2017/10/13/ダイバーシティ・マネージャーとしての活動-2
ダイバーシティ・ マネージャーとしての活動
営業本部でダイバーシティ・採用・トレーニング担当マネージャーとして2年半担当後、初代のダイバーシティ・マネージャーKさんが会社を退職され、独立されることとなり、異例ではあるが、後任として人事統括本部に異動し、ダイバーシティ・マネージャー(北東アジア担当) となった。
営業本部から異動することも異例ではあったが、男性が会社のダイバーシティ・マネージャーとなることも異例であった。
社内的には、北東アジア(日本と韓国)で立案されたダイバーシティ戦略のアクション・プランを確実に進めていくことや、各本部別の進捗状況の管理や経営者会議でのレビューなどの活動や、毎年6月をダイバーシティ強化月間とし、その中で行われるフォーラムの準備などを行った。また、毎月グローバルでのダイバーシティ・マネージャーの電話会議への参加があった。これは時差の関係上いつも夜に行われた。
社外的には、以前のブログにも書いた、内閣府の「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)専門委員会」の委員と、神戸市男女共同参画審議会の委員も任命されたので、そちらへの参加や、行政や学校から講演依頼などがあった。全てお受けすることはできなかったが、時間の許す限り、会社のダイバーシティの取組みに関して、少しでも参考になればと思い、僭越ながらお話をさせていただいた。 その頃、日経ウーマンで「女性が働きやすい会社100」という特集があり、2回続けて1位にランキングしていただいたこともあり、取材の依頼が多くなった。広報本部(エクスターナル・リレーションズ)にダイバーシティ関連の担当者がおり、一緒に仕事をする機会が多かった。
また、関西の企業が集まってダイバーシティを勉強するネットワークがあり、そちらにも参加させていただいた。活動内容としては、月に1回集まって、ダイバーシティの担当者として、抱えている問題などをテーマ(例:女性活躍推進に積極的でない管理職の意識を変えるには?)にしてグループ・ディスカッションで色々なアイデアを出し合って発表したり、各企業がどんな取り組みをしているか紹介しあったりするものだった。 いつも20〜30社位参加されていたように記憶している。
背景の違った企業の人事担当者が集まってディスカッションすることは、まさにダイバーシティを実感できる機会であり、参加していてとても刺激があった。
<次回へ続く>
営業本部でのダイバーシティ推進活動 8
営業本部での活動として、ネットワークの活性化やメンタリング・プログラムの開始など、色々新しい取り組みを行った。それなりに効果を発揮したものもあったし、すぐには芽が出てこない活動もあった。
その中で一番印象に残っている活動として、「営業本部ダイバーシティ・フォーラム」が挙げられる。これは、女性社員とその上司を対象参加者として、丸2日ダイバーシティに関して考えるというフォーラムだった。総勢100名を超える参加で、男女比率は約半々だった。
本部長の強いサポートもあり、組織も本人も無意識に眠らせている女性の能力を最大限発揮させるために何ができるかプランを練った。プログラムの内容は代替下記の通りだった。
営業本部でのダイバーシティ推進活動 7
その時考えた事を書いていこうと思う。
まず、「女性に焦点を当てる」ということは、女性が男性と同等に活躍できる環境を実現する事であり、女性に下駄をはかせることではない。
新卒の採用をしていると毎年思うのだが、男性と女性の学生で、性別による差はない。どちらかと言うと女性の方がしっかりとしている印象を感じる事が多かった。結果的に、当時は男女の採用比率はほぼ半々だった(女性の方が多い時もあった)。翻って社内を見ると男性が9割程度を占め、管理職の比率はも男性の方が明らかに高かった。もっとも20~30代では女性の比率は30%台だったと記憶しているが、それでも女性の定着率は男性に比べると低い状態だった。
入社時は男女差がないのに、なぜ数年経つと昇進の比率や離職率などに差が出てくるのだろうか?
理由はいくつか考えられる。彼女達が独自の価値観で会社を辞める事を選んだり、プロモーションに価値を置かないのであれば、それはそれぞれの人生観なので尊重されるべきで、そこにまで踏み込むことは無いと思う。
しかし、当時ぼくが気になったのは、アンケートなどで、会社でのキャリアや昇進に関して興味がありますか?的な質問をした時に、「イエス」と答える比率は男性の方が明らかに多かったのは想定内ではあったが、女性は「イエス」と「ノー」の間の「どちらでもない」と答える比率が男性に比べて非常に多かったことだった。
察するにロール・モデルもないし、詳しいことを相談する相手や機会がなかったので「よくわからない」のではないか?あるいは結婚したり、子供が生まれたり、夫が転勤になったらと考えると、「よく分からない」ではなく、将来のキャリアなんか考えても仕方ないと半ば「あきらめている」のではないのではと思ったりもした。
同等の機会を提供するということは、どちらかが、自然にできる事を、一方ができない状況が存在するのであれば、それが自然にできる環境に意識的に開発していくということなのだ。その活動の一端だけを見ると、女性ばかりなぜ?となるかもしれないが、今迄無意識のうちに形成されていた環境を、取り組めば人材という資源を有効に活用できる機会として捉えれば、会社としてアクションを加える事は、他社がやっていないのであれば尚更、競合優位性を産み出す効果的な戦略となるのではないだろうか。
ワーク・ライフ・バランスや柔軟な働き方を戦略に入れて、会社としても効果的な解決策を機会として考えるべきだし、ネットワークの構築やメンター制度なども同じである。それだけでなく、組織として、無意識であることに関して意識するよう理解を深める機会を積極的に作らなければならない。
一方で、会社が全て解決できる訳ではない事も実状として認識しておかなければならない。日本の風習と言うか、例えば家事や育児は女性がする的な事が原因であるならば、それは行政や社会が考える必要があるかもしれない。
自分たちが会社組織としてできる事は何なのかを考えて、できる事を粛々と進める事が大事だと思う。
<次回へ続く>
営業本部でのダイバーシティ推進活動 6
戦略が決まり、上級管理職会議にて承認を得ると、いよいよ活動の開始となった。
活動を進めていく上で注意したのは、打ち上げ花火みたいな感じにしないことだった。「最初は威勢がよかったけどその後どうなった?」的なプロジェクトをたまに見かけるが、今回のダイバーシティ推進戦略は、長い旅の始まりなのだ。
そこで、軌道に乗せる為に、ニュースを継続的に発信していき、毎月なんらかのダイバーシティに関するトピックが発信される様にタイミングを工夫した。
最初の月はダイバーシティ戦略に関する説明や今後の活動に関しての本部長からの発信。次の月はウーメンズ・ネットワークの開始、その次は社内メールを活用したダイバーシティ・ニュースの発信、その次はメンターシップ・プログラムの開始、グローバルで既に存在する女性リーダーが日本に来る時に話す機会を彼女に経験を話してもらうセッションの開催など、何らかの活動やイベントを毎月実施することで、社員の認知や興味を高めていった。また、折に触れて営業本部長などからもダイバーシティに関する話をしてもらうことによって、会社や営業本部が本気でダイバーシティに取り組んでいることを、肌で感じてもらう様にした。
一方で、認知が高まり、組織内でダイバーシティに関する話題が増えれば、その分反対意見やネガティブな反応があったのも事実だ。
「女性ばかりに焦点を当てて、不公平じゃないか」とか、「女性ばかり昇進して、男性のポストが減る」など色々な声が遠回りをして聞こえてきた。上司は上司で「会社が決めたことだから」で終わってしまう…。
一方で、入社したての若手社員からも、なぜジェンダー・ダイバーシティ?という声が聞こえてきた。ダイバーシティで女性に焦点を当てることにピンとこないのだ。なぜなら、学生時代は性別で何か大きなギャップが生じることは無かっただろうし、大学によっては、性別に関係なく、色々な国籍の人たちと触れ合う機会があったり、意見を交わす経験を多くしたりしてたから…。だから、なぜわざわざ、ダイバーシティでジェンダーギャップに取り組むのかが分からないのである。
<次回へ続く>
営業本部でのダイバーシティ推進活動 5
並行して進めていた営業本部のダイバーシティ戦略は、外部要因、本社との関連性なども考慮して策定していった。
まず、ビジョンとして、近い将来(具体的には5年後をイメージ)にどの様な環境になっていたいのかを思い描き、オブジェクティブ(目標)を設定し、それを達成するための戦略を作成した。詳しい内容は割愛するが、イメージというか方向性は以下の感じだったと記憶している。
ビジョンは、営業本部メンバー及び美容部員がそれぞれ価値を置かれ、個性を尊重され、発揮することにより、一人ひとりが最大限能力を発揮できる環境を実現し、ビジネス成長につなげること。
目標(オブジェクティブ)は、各階層における男女比率を採用市場の男女比率に合わせ、女性の離職率を男性と同等にすることだった。もう少し説明を加えると、我々が求める総合職採用市場の男女比率が仮に男性55、女性45であったとすると、係長・課長・部長の各階層においてもその比率を実現するということである。また、離職率に関しても男性のそれと同等にすることが目標であった。必ずしも比率を半々にするとか、離職率をゼロにするというわけではなく、採用・昇進・定着率において男女間の不公正なギャップを無くすということだったと記憶している。
戦略に関しては5つほど策定したと思う。ダイバーシティの正しい理解を組織内で推進し、ダイバーシティを育む文化を育成すること(その中には管理職のトレーニング等が含まれることになる)や、メンターシップや女性社員のネットワークを活性化するとか、将来の女性リーダーを育成する活動を行うとかあった。他に、ワーク・ライフ・バランスの推進とか採用に関する戦略もあったと記憶している。
それぞれの戦略には、より詳細な行動計画を作成し、成功指標、期限、実行担当者を決め、進捗状況を毎月確認していった。予定通りであれば緑、遅れがちな場合は黄色、進んでいない場合は赤と色分けをして、一つひとつの対応を検討していった。
もう一つ大事なことなのだが、ダイバーシティの組織貢献は、全社的にその部門の責任者の評価の重要な一つと位置付けられていたので、戦略策定、および実行段階においても徹底的に確認が行われたのは、ダイバーシティ担当者としてプレッシャーもあったが、トップのコミットメントがあったのは進めていく上で非常にやりやすかったことを覚えている。
<次回へ続く>
営業本部でのダイバーシティ推進活動 4
ダイバーシティを推進していく上で、組織も個人も柔軟性(フレキシビリティ)を持つことが重要であると思う。
もちろん会社として就業規則等で、育児休業期間を延長するとか、在宅勤務制度を導入することなど制度の充実も重要だと思うが、本当に重要なのは、それを活用できる環境を整えることである。働きやすい素晴らしい制度はあるけれど、その制度をいざ利用したいと手を挙げることに、とても勇気がいる職場環境では十分とは言えない。「えっ、男性育休取るの、この忙しい時期に…」的な一言がどれだけ本人に影響を及ぼすか、少なからず部下を持つ立場の人は、意識しなければならない。あるいは「そう言われるに決まってるから相談したくない」なんて状況は、特に憂慮されなければならない(これらに関しては別途詳細について書きたいと思う)。
女性社員に限らず、上司と部下の信頼関係を築き上げることは、本人の能力を導き出すためにも非常に重要である。制度の充実化よりも優先順位は高いのではないかと思う。そのためには具体的に何が必要か?
「はいこれです!」と一言で言い切れる特効薬はないが、まず第一にコミュニケーションの質を上げることではないだろうか。
前回のブログで書いた、「セクハラではないか」とか「上司たちの酒の肴(話題)にされるのではないか」という懸念は、結局のところ、コミュニケーション(あるいはその能力)の不足から来るもので、上司が部下を持つ立場になった時に、正しいコミュニケーションに関するトレーニングを受けていないと、自分なりのコミュニケーションスタイルや、あるいは自分が部下であった時の上司を思い描いて、部下との接し方を選んでしまいがちである。今まではそれでうまくいったかもしれない。なぜならば、自分が男性で上司も男性だったからだ。だから、そのスタイルで女性の部下とコミュニケーションをとった時に、なんとなくしっくりこないことがあっても、それは自分ではなく(マイノリティである)部下の方に改善の余地がある、なんて思ったりすることもあるのだ。だって自分も、多くの他の部下もそのコミュニケーションがしっくりいっていたから…。
ダイバーシティを推進してイノベーションをビジネスに吹き込みたいのであれば、上司は、よりこのコミュニケーションの多様性をスキルとして身につけること意識する必要がある。
一方で、組織は、個人任せにするのではなく、そのスキルを上司一人ひとりが身に着けられる様に、トレーニングを提供し管理職を育成していく必要がある。
結果として、性別、国籍等に関係なく様々な個性を持った社員の能力が引き出せる様になるひとつの大きなきっかけとなるはずだ。
ダイバーシティを推進していく上での成功の鍵は、直属の上司が握っていると言っても過言ではない。
<次回へ続く>